ギリシャ人の楽天的な国民性

 明治から昭和のはじめにかけて日本人のルーツについての奇説、珍説が相次いで登場した時期があった。その中にはなんとギリシャ起源説というのもある。その説を大まじめに唱えた人物はバイロンプラトンを翻訳した知識人だったというからびっくりである▲この説そのものは日本の神話をギリシャ神話にこじつけてみせたのにすぎない。それが評判を呼んだ背景には、日本人を何とか西欧文明の起源に結びつけたいという屈折したナショナリズムがうかがえる。今から思えば何ともせつない情熱である▲アテネ五輪開幕まで、はや1カ月を切った。日本ではスタジアムの整備をはじめとする準備の遅れを心配する声が強い。この期に及んでの大停電のニュースにも「おやおや大丈夫か」との声が起こる。どうも心配性の日本人とは対照的なギリシャ人の楽天的な国民性が話題になりがちだ▲大塚製薬が行った健康意識調査によると、自分の寿命の予想平均値はギリシャ人が79・6歳、日本人が74・3歳だったという。ちなみに実際の平均寿命は日本人の方が上回っている。また健康に自信を持つ人も、ギリシャ人が8割以上なのに対し日本人はわずか半数にとどまった▲ここでハタと考えてしまう。自分は長生きしそうだと思いながら平均寿命の短い社会に暮らすのと、平均寿命の長い社会で自分は短命かもしれないと思いながら暮らすのと、いずれが幸せか。誤解のないようにいえばギリシャも世界有数の長寿国である▲エッセイストのF・アルベローニは、悲観主義者に欠けているのは「ちょっとしたファンタジー」だという。日本人もアテネ五輪を機会に、ギリシャ人から持ち前のファンタジーをちょっぴり分けてもらった方がいいかもしれない。(余録)