2004-09-01から1ヶ月間の記事一覧

「ちろり」

「世間(よのなか)はちろりに過ぐる、ちろりちろり」。室町時代にはやった歌謡を集めた「閑吟集」に、こんな小歌がある。世の無常を歌っているのだが、一瞬の動きを表す「ちろり」というのが面白い▲形あるものが生まれ、また崩れ去るのもしょせん「ちろり」…

月を待つのが風流の道

これといった目玉に欠けた内閣改造。それを察知してか、大目玉の台風21号が東シナ海からとって返して、列島に接近している。意地悪な台風のせいか、つれない秋雨前線のしわざか、昨夜、中秋の名月、十五夜お月さんが姿を見せた地域は限られていた。▼しかし、…

最後のジャンプ

三段跳びのことを昔はホ・ス・ジャンプといっていたそうだ。ホップ・ステップ・ジャンプの略である。いまの名前に変えたのは、アムステルダム五輪の金メダリスト織田幹雄だといわれる。 三段跳びで重要なのは最初のホップである。高く跳びすぎないことだ。高…

時代の鏡像

フランスからいろいろ新しいものが流れ出てくる時代があった。文学、美術、思想から映画、ファッションまで。1950年代がそんな時代だった。50年代半ば、18歳の女子学生が書いた小説があれほど熱狂的に迎えられたのも、一つには強烈なフランスの香り…

下駄の音

小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が没して二十六日でちょうど百年となる。一八五〇年、ギリシャに生まれ、四十歳で来日。島根県松江中学の教師となる。熊本五高を経て、東京帝大、早稲田大に奉職▼最初に泊まった松江の大橋川端の旅館で、夜明けとともに聞こ…

スト回避

灰田勝彦さんの歌う「野球小僧」が世に出たのは1951年。サンフランシスコ講和条約が結ばれ、敗戦日本がやっと独立を回復した年だった。そんな時代の気分が伝わってくる明るい歌声は、いまもラジオの深夜放送で時々流れている▲テレビニュースで、日本プロ…

新そば打ち始めました――。まだ昼までは少しあったが、張り紙につられて、のれんをくぐった。すいていた小上がりに座る。 北海道産の粉で打ったという。どこか青畳のかぐわしさにも通じるような、かすかな香りを味わう。香りだけではなく、そばは、畳との相性…

帝釈天の門前

俳優の渥美清さんは「風天」という号で俳句を詠んだ。映画の役柄、フーテンの寅さんにちなむという。「ゆうべの台風どこにいたちょうちょ」。やや破調ながら、旅先の道端で寅さんが語りかけているような趣がある◆秋の蝶(ちょう)には舞う姿にどこかしら必死…

「あとみよそわか」

幸田露伴は娘の文(あや)に掃除を稽古(けいこ)させた。鍛錬と呼べるほどの厳しさで、ぞうきんの絞り方、用い方、バケツにくむ水の量まで指導は細かい。終わると「あとみよそわか」と呪文(じゅもん)を唱えさせた◆「あとみよ」は「跡を見て、もう一度確認…