時代のコーナーを曲がるのは難しい

 尾頭つきの「鯛(たい)の浜焼き」に、ウナギを卵焼きで巻いた「う巻き」。上方落語の「鴻池の犬」に出てくる大阪の両替商・鴻池の飼い犬のエサである。むろん作り話だが、江戸時代の庶民にとって鴻池は巨万の富の象徴だった▲西鶴の「日本永代蔵」に「江戸酒つくりはじめて一門さかゆるもあり」とあるように、鴻池は新開発の清酒を江戸に運んで財をなし、すでに元禄には日本一の富商となっていた。貸借勘定と損益勘定を同時に行う日本最古の複式決算の記録を残すなど、合理的経営でも先端を走った▲ただ商売の拡大は全国諸侯への「大名貸し」によるところが大きかった。幕末には取引先の藩は76にのぼったが、そこを直撃したのが明治の廃藩置県だった。大名への貸付金は不良債権になり、新興の三菱などの財閥に後れをとってしまう。大きな時代のコーナーを曲がるのは難しい▲四つのメガバンクの一角を占めるUFJグループは、ルーツをたどれば一つは鴻池にいきつく。そのUFJ三菱東京グループとの経営統合へ踏み出すことになった。不良債権処理の遅れにより、単独での生き残りが難しくなったための選択らしい▲統合が実現すれば、総資産190兆円という世界最大の金融グループが誕生する。1990年代からの金融界再編もこれにより一段落するものと見られている。果たして日本の金融システムは、大きな時代のコーナーを曲がり切ることができたのだろうか▲鴻池が大名貸しで巨利を得ていたころ、三井総領家の三井高房は「大名貸しは賭博のようなものだ」と、これを禁じた。金融の歴史にもさまざまなアヤがある。それらをすべてのみ込んだ三つのメガバンクは、一体どんな21世紀の富のドラマを見せるのだろうか。(余録)