つきじ獅子祭

曇 26.2-20.6-58 12911築地、明石町、湊、八丁堀。 つきじ獅子祭。古い木造の街並が残る築地6・7丁目を歩く。 大正時代にあった雄雌30対ほどの獅子頭は、関東大震災でほとんどが焼失。以来神輿だけの巡行が続いたが、木場の海底で樹齢3000年の黒檜の…

優勝パレード

曇 27.6-18.8-60 15126 千代田、北の丸公園、九段南、神田神保町、神田小川町、神田駿河台。駿河台で明治の賑やかな優勝パレードに出くわす。群衆の中にいると明治に関係なくも気分が高揚し感動し、思わず明治、明治と歓呼の声をあげたくなる。

森山大道

曇 22.4-14.7-55 12095 恵比寿、三田、恵比寿南、目黒、下目黒、上大崎。東京都写真美術館で森山大道を見る。自己には資料、見る人には印象。「小樽」。 「写真はコピーである、と自分で言い聞かせているんです。外界をコピーして、資料をどんどん集める感覚…

報復代行

深夜の山中から、マイクを手にした背広姿のリポーターが、現場の様子を伝える。テレビ各局引きも切らず、中には早朝番組のためか、朝ぼらけの現場というのもあった▼女子高専生(20)を殺害した疑いで全国手配されていた同級生の少年(19)が、自殺遺体で…

マザー・テスト

「最も美しい英単語はマザー(母親)」。英国の国際交流機関「ブリティッシュ・カウンシル」が、英語を母国語としない世界の4万人に尋ねた結果だという。以下パッション(情熱)、スマイル(笑顔)、ラブ(愛)と続いたが、70位までにファーザー(父親)…

可愛いおばあちゃん

口にするのも恐ろしい『オニババ化する女たち』(三砂(みさご)ちづる著、光文社新書)を書店でみつけ、レジの女性に「オニババにならないよう、若い女性必読だって」と軽口をたたいたら、「もうなっているかもしれませんよ」と返された。 月刊誌『POCO…

ポインセチア

「ポインセチア愛の一語の虚実かな」。角川源義の句である。師走の声を聞いて、街にはポインセチアの赤があふれている。クリスマスフラワーとしてのこれほどの流行は戦後のことだが、大正時代に寺田寅彦が書いた随筆には病気見舞いのポインセチアの話がある…

心のこもった相聞の年賀状

国文学者の池田弥三郎さんが富山県魚津市の大学に勤めていたころ、東京にいる友人の文芸評論家、山本健吉さんに手紙を書いた。文面はただ一行、「ブリさし、イカさし、さしすせそ」。 こちらの魚はうまいぞ、一緒に飲みたいね、という池田さんの心を読み取っ…

ジャン・コクトー

「ときどき思うのだが、どうして日本の画家や映画製作者たちは、天然色の漫画映画を作らないのだろう」「君、ウォルト・ディズニーの波を見たまえ。あれは(葛飾)北斎の波だよ」。 フランスの詩人ジャン・コクトーは、二・二六事件の余燼(よじん)くすぶる…

島田正吾

明治維新の風雲に出合いながらも、志を得られずにむなしく故郷に引っ込んで漢学塾を開いていた老人。「こういう人物に限って変物(かわりもの)である、頑固である、片意地である、尊大である、富岡先生もその一人たるを失わない」とは国木田独歩の「富岡先…

日記

「まさか、日記帳までが無くなる世の中になろうとは思わなかった…」。喜劇役者の古川ロッパ氏は一九四四年(昭和十九年)元日の日記にそう書いている。 書店の店頭から日記帳が姿を消した。「私は日記をつけるために生きている。貧乏も日記のサカナだ」と語…

日本の季節感は重層的である

銀杏(いちょう)の黄落は木枯らしに吹き飛ばされることもなく、小春日和の光を浴びて大地を染めている。庭先や軒下の菊も、けなげに咲き残る風情とは少し違う。暖かい晩秋が続いて、東京の初霜は例年より遅れ、残菊を際立たせる霜枯れの背景はまだ見られな…

酉の市

「此(この)年三の酉(とり)までありて中1日はつぶれしかど前後の上天気に大鳥神社の賑(にぎわ)ひすさまじく」(『たけくらべ』)。樋口一葉がそう書いた年と同じように、東京の下町に冬の到来を告げる今年の酉の市はこの週末三の酉を迎えてにぎわう。 …

関係存続の契約

「いつも一緒にいよう」「あなたと人生最大のギャンブルがしたい」。少子化の要因とされる若者の晩婚化や非婚化に歯止めをかけようと、奈良県が募った「あなたのプロポーズの言葉」に全国から3600件を超す作品が寄せられた。 かつては「一緒に苦労しないか」…

携帯は下手なままでいます

路地を歩いていた。先の方の四つ辻に、子犬を連れた男性が立っていた。こちらから見て右を向き、誰かと話している。相手の姿は角の家に隠れて見えない。やがて辻に近づき右手を見ると、そこには誰もいなかった。死角になっていた男性の左の耳もとに携帯電話…

天高く馬肥ゆる秋

中国の故事が日本に伝わり、本来の意味とは違った用いられ方で定着した慣用句がいくつかある。辺境から異民族が馬で襲来する季節に、迎え撃つ側が警戒を呼びかけた「天高く馬肥ゆる秋」は、なかでも知られている。 血なまぐさい緊張感をきれいに洗い落とし、…

歴史を刻む墓碑

時に、公園のような広い墓地を通る。桜の開花、枯れ葉の舞、そして静かな冬枯れと、季節につれて木々の表情は大きく変わる。変わらないのが墓石だが、中には、崩れたり、欠けたりしている墓もある。墓場は、忘れられない人と忘れられた人を抱いて、時を重ね…

キノコの正体

「こっそり秘密の物を見付けた心躍りといったが、きのこはなんとなく遥かな気分をもたらすのである」。山からキノコを採って帰るときのことを、歌人の前登志夫さんがそんなふうに描いている(「月夜茸」)。 宝物を掘り当てたような高揚である。美味、しかし…

容貌愚なるが如し

明治の初め、西洋の文明国を視察した岩倉使節団はある日、英国ニューカッスルの大砲工場を見学した。社長が案内に立った。「温温たる老翁にて、容貌(ようぼう)愚なるが如(ごと)し」。 「米欧回覧実記」でそのくだりを読んだとき、好意で便宜を図ってくれ…

秋風秋雨、人を愁殺す

秋の心を愁といい、古来、秋には憂愁がつきまとってきた。とりわけ秋の雨は心を重くし、今年の秋雨は、ひときわ憂いを誘う。 この言葉はあまりに鋭すぎるだろうか。「秋風秋雨、人を愁殺す」。清に対して革命を企てたとして1907年、33歳で刑場に散った…

神はサイコロを振らない

「神はサイコロを振らない」とはアインシュタインの言葉だ。彼は、原因と結果の関係は確率的にしか分からないという量子力学の考え方に反対し、この言葉を繰り返した。神が意図しない偶然は、この世に存在しない。そんな彼の宗教的信念でもあった▲この天才に…

山古志村

越後路を旅する八犬士のひとり、犬田小文吾は神事「牛の角突き」を見物した。曲亭馬琴は「南総里見八犬伝」に、「実に是(これ)、北国中の無比名物、宇内(みくにのうち)の一大奇観なり」(岩波文庫)と記している。国の重要無形民俗文化財に指定されたそ…

聞く人の心の地獄に、立ちすくむ

広大無辺にして、花あり、緑あり、潤いに満ちた人生を――という両親の祈りに包まれて、この世に生を受けたのであろうに。みずからと同じ名前をいただくみどりごに、ふるさとの大地が与えた運命は、冷たく、むごい。生後二か月の樋熊(ひぐま)大地ちゃんは、…

おにあーそぼ

「なぜ 風は/新しい割ばしのように かおるのだろう」。詩人川崎洋さんの詩「なぜ」の一節である。なぜ、海は色を変え、人はひとりの人を愛するようになり、涙はうれしい時にも出るのだろう◆いくつもの「なぜ」のあと、詩は結ばれている。「人はなぜ/いつの…

平成の台風ラッシュ

比叡山の東塔にあった巨大な鐘が大風に飛ばされ、転がる先の僧坊を壊しながら谷底に落ちていったという話が「今昔物語」にある。永祚(えいそ)元(989)年8月13日とあるから、気象史上に名高い平安時代最大の台風の時らしい▲この折、宮城や寺社の多く…

海水で車が燃えた

また大型の台風23号だ。これでことしの上陸は十個目。東京都心では十月の雨量が二十日正午で五八一ミリを超え、観測史上最多となった。平年の三倍に達し、まだまだ更新しそうだ▼おかげで西武ドームで予定の日本シリーズ第4戦は順延された。第3戦は満塁本…

世事見聞録

いつの世にも社会の裏側を知り悲憤慷慨(ひふんこうがい)する人がいる。文化年間というから今から200年ほど前、江戸時代も爛熟(らんじゅく)期に武陽隠士(ぶよういんし)の匿名で「世(せ)事見聞録(じけんぶんろく)」を著した武士もそうした人だ。例え…

里山再生

大阪近郊に暮らす友人に誘われて、秋の実りの収穫に出かけた。予想したより山が深い。「クマ? 大丈夫」。友人は事もなげだ。「イノシシなら出る」。それだって怖い。茂みが鳴るたび、腰が浮いた▲NPO法人日本ツキノワグマ研究所(広島県)理事長の米田一…

ユージン・スミス

水俣病の惨禍を伝えて世界中の人々の心を打った一枚の写真がある。米写真家ユージン・スミスさんが一九七一年に撮影した当時十五歳の胎児性水俣病患者、上村智子さんの湯浴(ゆあ)みの図▼湯船の中で、痩(や)せて硬直したままじっと中空を見据える少女を、…