2004-08-01から1ヶ月間の記事一覧

RIMPA

俵屋宗達や尾形光琳が、ヨーロッパの装飾芸術に大きな影響を与え、現代の工業デザインの源流に連なる革新的造形芸術だったと考えるのは愉快なことだ▼そんな日本が誇る「琳派(りんぱ)」四百年の美を跡づける『琳派 RIMPA』展が、二十一日から十月三日…

「守・破・離」

「秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず」。世阿弥の「風姿花伝」にそうある。つまり諸道それぞれ家に秘伝があるのは、秘密にすれば神秘的効果が生まれるからだというわけだ。何かだまされた気がするが、だましてでも「花」を追い求めるのが芸というもの…

打ち水の「風」

「我が家の家憲としては十一二歳を越すと朝の掃除を一様にさせること……玄関掃除、門口に箒(ほうき)目を立てて往来の道路まで掃くこと、打ち水をすること、塀や門を拭(ふ)いたりすること、敷石を水で洗いあげることを、手早く丁寧にやらなければならない…

思ハザル

鎌倉時代の説話「沙石集」に歌がある。「言ハザルト見ザルト聞カザル世ニハアリ思ハザルヲバイマダ見ヌカナ」。言わない、見ない、聞かない――は口と目を閉じ、耳をふさげば、できる。「思わない」のは至難の業だ、と◆無心になれば、余計な力が抜けて好ましい…

記憶のなかに翻る日の丸

日本人で初めて五輪の金メダルを手にしたのは、一九二八年(昭和三年)の第九回アムステルダム大会、陸上三段跳びの織田幹雄選手である。表彰式の「君が代」と「日の丸」は長く語り草になっている◆君が代は初めの一節を飛ばし、途中の「千代に八千代に」から…

送り火

「忠魂に捧(ささ)ぐ浄白の大文字」−−戦時下の1943(昭和18)年8月17日の毎日新聞はそんな見出しで京都の「白い大文字」を伝えている。朝焼けの空を背にして、緑の中に白く浮き出た「大」の写真も添えられている▲京都五山の「送り火」が灯火管制や…

オリーブ

アテネ五輪の開会式でギリシャの選手団が手に手に小さな国旗を振っていた。どの旗の先にもオリーブの枝が揺れていた。「平和の祭典」という近代五輪の原点を振り返ろうというギリシャらしい小道具だ▲オリーブが平和のシンボルになるのは、ハトがオリーブの小…

オリーブの小枝

オリンピックの開会式の主役は、もちろん選手たちである。その選手たちが「点火の時に鳥肌が立った」と述べた聖火の役回りも大きい。しかし、アテネの開会式では、オリーブの存在が大きく見えた。 無数の小枝となって人々にうち振られ、大会のシンボルとして…

中国戦国時代の思想家・荘子は、優れた自然観察家でもあったらしい。先日の小欄で紹介した「胡蝶(こちょう)の夢」(http://d.hatena.ne.jp/chimimouryou/20040709)もそうだが、よく自分の考えを自然界の虫や動物で表した。「けい蛄(こ)(セミ)は春秋を知…

「より」をめざす力の激突

「より速く、より高く、より強く」。五輪の標語は、もともとは高校のラグビーチームに与えられた言葉だったという。だとすれば、ラグビーが五輪の競技種目から消えてしまったのはファンとしても残念だが、スポーツの世界にもいろいろ歴史のアヤはある▲「速く…

三遊亭円朝

明治時代に、文章の言葉遣いを話し言葉に一致させる言文一致の運動が起きた。中心に居た一人で「浮雲」などを著した二葉亭四迷が、「余が言文一致の由来」を記している。 「何か一つ書いて見たいとは思つたが、元来の文章下手で皆目方角が分らぬ。そこで、坪…

関電は放置したという

人間の知恵がつくりだしたものを挙げてごらん、と父親が言う。息子が数える。「トラクター、チューインガム、バター…まだ知ってるよ、いちばん大きいのを、原子力」◆それだ、と父は教える。石油は乏しくなり、石炭の底も見えてきたが、原子はふんだんにある…

悪魔でも出し抜ける

相手が悪魔でも出し抜ける。芥川龍之介の「煙草(たばこ)と悪魔」には、悪魔が日本に持ち込んだタバコの草の名前を当てないと魂を奪われることになった牛飼いが出てくる。人の良さにつけ込まれ、悪魔にだまされてしまったのだ▲牛飼いは一計を案じて牛を悪魔…

ザネスの神像

古代オリンピックの競技場の入り口近くには、かつて16ものザネス(ゼウスの方言)の神像が立っていた。2世紀ローマのパウサニアスは、像には「優勝は金銭によってではなく、脚の速さと身体の頑健さによって獲得されなくてはならない」と刻まれていたと伝…

アテネ五輪

アテネ五輪が今週末に始まる。今大会で、メダルの図柄が一新された。古代ギリシャの詩人、ピンダロスの祝勝歌の一節が、裏面に刻まれている。 「黄金の冠を戴く競技の母オリュンピアよ、/真実の女王よ!」。紀元前460年の、少年レスリングでの勝者アルキ…

祈りの道

世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の中心部にある湯の峰温泉(和歌山県本宮町)は、小栗判官(おぐりはんがん)伝説の舞台として知られる。中世の暴れん坊と妻・照手姫の情愛物語は説経節で流布され、スーパー歌舞伎にも脚色された。異説が多いが、見せ場…

カルティエブレッソン

言葉が独り歩きし、ある人物を語るとき枕詞(まくらことば)のように使われるだけでなく、流行語になり、やがては歴史に残る言葉になってしまう。今週、95歳で亡くなった20世紀を代表する写真家アンリ・カルティエブレッソンをめぐる「決定的瞬間」とい…

戦争体験を語り継ぐ

「わしの分まで生きてちょんだいよォ!」とおとったんは言い残し、炎に包まれた。生きのびた娘は罪の意識に苛(さいな)まれ、幸福をつかみ取ることができない。娘の葛藤(かっとう)が死んだはずの父を甦(よみがえ)らせた▼井上ひさしの戯曲『父と暮らせば…

父と暮せば

「私は逃げたのです。瀕死(ひんし)の重傷を負った学友を救おうともせず、卑怯にも逃げてしまったのです……」。映画監督の黒木和雄さんは、新刊の『私の戦争』(岩波ジュニア新書)で、45年に学徒動員先で空襲に遭った時のことを書いている。 米軍機に爆撃…

五番町夕霧楼

東京の街はあの「39・5度ショック」から立ち直れないかのように見える。日本中がまだ炎暑にうだっている。静岡県浜松市で開かれている「浜名湖花博」では、ヒマワリやユリなどが高温のため早く咲き過ぎ、抑えるのに苦労しているそうだ。 ▼そういえば、夏…

百日紅

「散れば咲き散れば咲きして百日紅」とは加賀の千代女の句だ。目を引く花の乏しい盛夏に、サルスベリの花ばかりは100日前後も咲き続ける。中国から日本に入ったのは江戸時代というから、千代女のころにはまだ新参の花だったのか▲サルスベリの名も面白いが…

それぞれの一夏

体感としてはもう十分すぎるほど知っている。それを数字で知らされると、暑いというより、熱い。6、7月の平均気温は、東、西日本とも観測史上最高となった。この100年で東京の年平均気温は3度も上がった。都会では、健康の上からも、夏休みの重みが増…

アテネでの2度目の五輪

「戦争が起きるのは、二つの国が互いに相手を誤解するからである。異なった民族同士を隔てている諸々(もろもろ)の偏見が根絶されるまでは、我々は平和を手にすることができないであろう」。近代五輪の父クーベルタンは、アテネで第1回大会が開かれた18…

石橋秀野

鐘鳴れば秋はなやかに傘のうち前書に「東大寺」とある。句の生まれた状況は、夫であった山本健吉によれば、次のようである。「昭和二十一年九月、彼女は三鬼・多佳子・影夫・辺水楼等が開いた奈良句会に招かれて遊んだ。大和の産である彼女は数年ぶりに故国…

夏の音

夏の音というと、まずセミの鳴き声を思い浮かべる。騒々しい音とはいえ、夜になれば静まるし、秋風とともにやがて消えていく。騒がしさのなかに移ろいのはかなさを秘めている。 風鈴はどうだろうか。音で風を知り、涼しさを感じる。昔の人の知恵である。こち…

不評日本語

「させていただきます」「じゃないですか」「あげる」「いやし」「な」。エッセイストの高島俊男さんが『キライなことば勢揃(せいぞろ)い』であげている最近の「不評日本語」の例である。つい使っていたという「自覚症状」はありませんか。▼「な」は「○○を…

言葉が生き物

誤用率が七割というから、姑息(こそく)は「卑怯(ひきょう)な」ことでなく本来は「一時しのぎ」の意味と知って驚いた人が圧倒的に多いことになる文化庁の国語世論調査によると、「檄(げき)を飛ばす」も「憮然(ぶぜん)」も誤用が多かった。言葉は生き…