文芸春秋の一人勝ち?

 第百三十一回芥川賞直木賞選考委員会が十五日開かれ、芥川賞モブ・ノリオさん(33)、直木賞奥田英朗(ひでお)さん(44)と熊谷達也さん(46)の三人がすんなり決まった▼前回一月は綿矢りささん(19)と金原ひとみさん(20)=当時=の女性二人で最年少芥川賞作家と話題を呼び、ミリオンセラーにもなって出版界はうるおった。今回派手さはなかったが、異才の芥川賞と実力派の直木賞二人の登場で期待も大きい▼東京・丸の内の東京會館(かいかん)に現れたモブさんは、スキンヘッドにキャップとサングラス。首にタオルのいでたち。いきなりマイクを蹴(け)倒して壇から転がり落ちるパフォーマンスを見せ、開口一番「舞城(まいじょう)王太郎です」とやって、会場をしらけさせた。舞城さんは同じ芥川賞候補だった覆面作家。モブさんも本名は未公表だ。「笑いが欲しくて」と関西流?のサービス精神だったらしい▼歯切れのいい関西なまりのラップ調文体で一気に読ませる受賞作『介護入門*1』は「文学界」六月号に発表されたばかり。文学界新人賞も受賞。祖母の介護に専念する二十九歳、無職で「金髪の穀潰(ごくつぶ)し」のストレートな正義感が伝わる▼奥田さんの『空中ブランコ』(文芸春秋)はユーモア小説。井上ひさしさんが「これほど笑わされるのは尋常な才能ではない」と絶賛。熊谷さんの『邂逅(かいこう)の森』(同)は山本周五郎賞とのダブル受賞となる。東北地方のマタギの生活を描いて民俗学界からも注目された重厚な作風▼直木賞は「両作ともほぼ最高点での決定」(井上さん)とか。文芸春秋の一人勝ち?(筆洗)

*1:著者モブ・ノリオ氏描く無職の主人公は髪を金色に染め、大麻を吸い、音楽に浸りながら連日、深夜二回、隣に眠る祖母の下半身を熱いタオルでふく。口先だけで同情する親せきに毒づき、手抜きのヘルパーを痛罵(つうば)し、介護現場を安直に「地獄」と見る世間を呪(のろ)う。「春秋」2004/7/17