「ダ・ヴィンチ・コード」

シソ 01

 話題の小説「ダ・ヴィンチ・コード」が面白い。イエス・キリストが実は結婚していて、子供もいたという奇抜なストーリーに加えて、「モナ・リザ」や「最後の晩餐(ばんさん)」などの名画がふんだんにナゾ解きの道具に登場する▲邦訳は2カ月前に出たばかりだが、原作は昨年3月に米国で発刊され、700万部を超すベストセラーになったそうだ。巧みに史実を織り交ぜながら、異端者や秘密結社が出没するキリスト教世界の暗い葛藤(かっとう)を描いている。教会になじみの薄い素人にも、イエスが元来は男女同権論者だったとか、女性の立場をあがめていたなどの設定は興味津々になる▲それだけに、男性中心の権威主義を守ってきたキリスト教保守層にとっては、面白くないテーマに違いない。ブームの一方で、米国内ではこの本を批判した宗教保守による反論書が相次いで出版されたという▲その意味では、著者ダン・ブラウン氏の意向とは別に宗教をめぐる政治の動きを過熱させているのではないか。30億円を投じて今春公開された映画「パッション」では、激情に満ちたキリストの最期が描かれ、賛否両論の嵐を巻き起こした▲11月の米大統領選でも宗教は重要な争点だ。宗教保守が支える現職ブッシュ陣営と挑戦者のケリー民主党陣営は同性結婚の是非をめぐってしのぎを削っている。学校での祈りや、「忠誠の誓い」にある宗教的表現も熱い論争の的だ▲気のせいだろうか、米国政治で宗教が異常な程にホットな争点になり始めた一つの節目は9・11同時テロだったように思える。信心深いのもいいけれど、超大国の政治がイスラムキリスト教原理主義対決をあおるようでは困る。愛と調和の心でふんわりと世界を包み込む政治を実現してもらいたい。(余録)