名画に描かれていたイエスの秘密
シオン修道会という、女神崇拝のためキリスト教から異端視される秘密結社がある。いや、実在するかどうかは不明だが、少なくともそれに関する「秘密文書」がパリ国立図書館に所蔵されていた。
中に歴代総長のリストがあり、十二番目にダ・ヴィンチ、十九番目にはニュートンの名も見える。実は、二十五番目が私の研究するドビュッシーで、リストのコピーもとってきたが、次に行ったときは請求番号を記したカードが煙のように消えていたり、不思議なことがあった。
本書は、そのシオン修道会とダ・ヴィンチをめぐる神学ミステリー。ルーヴル美術館の館長ソニエールが、ギャラリー内で暗殺された。遺体はダ・ヴィンチの「ウィトルウィウス的人体図」を模して大きく手足を開き、周囲には意味不明の数字や言葉が蛍光インクで書かれていた。
「人体図」はソニエール自身のダイイングメッセージだった。最後に「ロバート・ラングドンを探せ」と書かれていたため、警察は、来仏中のハーヴァード大学教授ラングドンを容疑者とみてルーヴルに召還する。彼は秘密結社の象徴学の権威で、事件の直前にソニエールから面会を申しこまれていたのだ。
いっぽう、ソニエールの孫で暗号解読の専門家ソフィーは、幼いころから祖父とアナグラムや暗号で遊んでいたこともあり、メッセージが自分に向けられたものと確信してラングドンをかくまう。
警察の追跡を逃れながらの、ルーヴル内での暗号解読がスリル満点。メッセージの文字を並べかえると「モナ・リザ」が浮かびあがる。「モナ・リザ」の防護ガラスの表面には、蛍光インクで六つの単語が殴り書きされていた。文字をさらに並べかえると、これもダ・ヴィンチの「岩窟(がんくつ)の聖母」になる。そして、「岩窟の聖母」の背後にあったものは……。
ひとつが解明されると、また別の暗号が立ちふさがる。ソニエールが命を賭して守ろうとした「秘密」は、キリスト教を根幹からゆるがすようなものだった。あの「最後の晩餐(ばんさん)」にまつわるあっと驚く謎ときも出てきたりして、ページをめくる手がもどかしい。