燕石考

オジギソウ 2002

 ともに巣から落ちたところを保護され、同じ籠(かご)で育てられていた子スズメが、口移しで子ツバメにえさを与える写真が十四日付の夕刊に載っていた▼窮燕(きゅうえん)籠に入らば雀(すずめ)もこれを助くの図。何とも愛らしい友愛シーンではあった。あの子ツバメはその後元気に巣立った▼会社の通用口に毎年巣をかけるツバメも六月の末には巣立ちしたのを見ている。と思っていたら先夜、同じ巣からまだ産毛のヒナが転がり落ち、警備の社員が梯子(はしご)で戻してやっていた。「なかにまだ五、六羽、小さいのがひしめいていますよ」という。ツバメはそんなに何回も出産するのだろうか▼中沢新一著『カイエ・ソバージュ1 人類最古の哲学』(講談社選書メチエ)によれば、「五月から八月にかけて、二度ないし三度出産する」ツバメの精力絶倫は、多産の象徴として東西普遍の伝承を生んだ。「ツバメの巣の中にはヒナの盲を治す不思議な石や安産の象徴になる子安貝が入っている」というものだ。その研究をまとめたのが南方熊楠の『燕石考』▼竹取物語の中でも、かぐや姫中納言石上麿足(いしがみのまろたり)に「ツバメの巣にある子安貝を取ってきてくれたら結婚しましょう」と無理難題をふっかける。青年が思春期の子供を木に登らせ、巣から卵を取って来させる習俗がある。これは「鳥の巣あさり」と呼ばれ、世界共通の性の通過儀礼だった▼かぐや姫もシンデレラも「結婚したがらない娘」という万古不易(ばんこふえき)のモチーフである。さて一・二九まで落ち込んだ出生率を引き上げる「燕石」はどこかにないものか。(筆洗)