アテネ五輪

タヌキマメ 02

 アテネ五輪が今週末に始まる。今大会で、メダルの図柄が一新された。古代ギリシャの詩人、ピンダロスの祝勝歌の一節が、裏面に刻まれている。

 「黄金の冠を戴く競技の母オリュンピアよ、/真実の女王よ!」。紀元前460年の、少年レスリングでの勝者アルキメドンを讃(たた)えている(『祝勝歌集/断片選』京都大学学術出版会)。

 古代オリンピックでの優勝は、大きな名誉だったが、不正もあった。紀元2世紀に、旅行家パウサニアスが著した『ギリシア記』(龍渓書舎)には、オリンピアのブロンズのゼウス像が、規則を破った選手たちに科した罰金を基に作られたとある。「財貨でなく足の速さと身体の強さを使ってこそ、オリュンピア祭競技の勝利を見つけることができる」。こんな銘が刻まれた像もあった。

 パウサニアスは、ダモニコスという男の「暴挙」についても記す。彼の息子と、ソサンドロスとが勝利の冠を賭けて格技を行うことになった。彼は息子を勝たせようと、ソサンドロスの父に財貨を贈った。罰金は、やはり神像になった。

 近代オリンピックでも、不正や疑惑は後を絶たない。政治利用や薬物まみれ、商業主義。罰で神像を作るなら、どれほどの数になったことか。「開催地買収」の工作が、続いているかのような報道もあった。

 ピンダロスは、こうも詠(うた)った。「はかない定めの者たちよ! 人とは何か? 人とは何でないのか? 影の見る夢――それが人間なのだ」。はかない限りある身が、企(たくら)みなしに見る夢の中にこそ、永遠が宿ることもある。
(天声人語)