悪魔でも出し抜ける

タケニグサ 01

 相手が悪魔でも出し抜ける。芥川龍之介の「煙草(たばこ)と悪魔」には、悪魔が日本に持ち込んだタバコの草の名前を当てないと魂を奪われることになった牛飼いが出てくる。人の良さにつけ込まれ、悪魔にだまされてしまったのだ▲牛飼いは一計を案じて牛を悪魔のタバコ畑に追い込む。あわてた悪魔は「何だって煙草畑を荒らすのだ」と思わず叫ぶ。タバコの名を知った牛飼いは、みごと悪魔の鼻をあかしてその畑を手に入れた。ただ善良な牛飼いに悪知恵を覚えさせ、タバコを日本に広めたのは、悪魔の計画通りでなかったのか。芥川はそうも疑っている▲悪魔は人の裏をかき、人は悪魔を出し抜こうとする。ビアスの「悪魔の辞典」によれば、「アクシデント(偶然・事故)」とは「不変の自然法則によって起こる不可避的な出来事」という。人の不幸を、避けられない宿命のように思わせるのも悪魔の手練手管なのである▲福井県美浜原発の事故で、破損した配管は運転開始以来28年間も点検を受けていなかったという。その初の点検が14日から行われようとしていた矢先の事故だったらしい。まるで悪魔が仕組んだようなタイミングである。犠牲になった4人とその遺族の無念を思えば言葉に詰まる▲むろん事故が「不可避的な出来事」であったはずがない。現実には、どんな悪魔も「不変の自然法則」に反する事故は起こせない。ならば悪魔が人間の裏をかくのと同じだけ、人間がその悪魔を出し抜くチャンスはあった。どこかでそれが見落とされたのだ▲関西電力では昨秋には点検の必要を認識していながら、今夏の点検まで放置していたらしい。そういえば「怠惰」とは、悪魔にとって実り豊かな農場だといっていたのも「悪魔の辞典」のビアスだ。(余録)<<