オリーブ

 アテネ五輪の開会式でギリシャの選手団が手に手に小さな国旗を振っていた。どの旗の先にもオリーブの枝が揺れていた。「平和の祭典」という近代五輪の原点を振り返ろうというギリシャらしい小道具だ▲オリーブが平和のシンボルになるのは、ハトがオリーブの小枝をくわえてノアの方舟(はこぶね)に戻ってきたという旧約聖書の話からだ。だが、その原形と見られる話が、旧約聖書より古いメソポタミアの「ギルガメッシュ叙事詩」にあるという▲だからオリーブの原産地はメソポタミア、いまのイラクあたりで、そこから地中海沿岸に広まったといわれる。ギルガメッシュは、シュメール人の建てた都市国家ウルクの英雄だ。自衛隊が駐屯しているサマワのムサンナ県にもウルクの遺跡が残っている▲五輪が開かれたって戦火はおさまりゃしない、というさめた見方もできるだろう。現にイラクでは、聖地ナジャフの戦闘が激しくなっている。だが開会式でアフガニスタンイラクの選手団がひときわ高い拍手で迎えられた。世界中の人々も心の中でオリーブの枝を振ったろう▲きょう59回目の終戦記念日に、日本人は「あの戦争」を振り返る。なぜ日本は、いちかばちかの戦争などという愚かな選択をしたのか。戦争体験のない世代でも、静かに目を閉じて戦没者の声に耳を傾ければ、きっとなにかが見えてくる▲イラク戦争を始めた時、米国で実戦の体験がある指導者はパウエル国務長官以外ほとんどいなかった。なのにホワイトハウス国務省国防総省も「戦争は清く正しく、場合によっては大きなゲームのようなもの」という考えが広まっていた(ボブ・ウッドワード「攻撃計画」)。米国もイラク戦争を虚心に振り返ってみる時ではないだろうか。*1

*1:余録2004年8月15日