スト回避

シオン 01

 灰田勝彦さんの歌う「野球小僧」が世に出たのは1951年。サンフランシスコ講和条約が結ばれ、敗戦日本がやっと独立を回復した年だった。そんな時代の気分が伝わってくる明るい歌声は、いまもラジオの深夜放送で時々流れている▲テレビニュースで、日本プロ野球選手会古田敦也会長が出てくると、「野球小僧」の出だしが浮かぶ。「野球小僧に逢ったかい、男らしくて、純情で……」。チームの大黒柱を小僧といっては失礼だが、39歳にしては童顔で、うつむき加減に話す表情が純情そうだ▲プロ野球の第2波ストが回避された。大阪の近鉄球団は消えるが、仙台に新しい球団ができるかもしれない。選手会の主張を日本プロ野球組織も無視できなかった。労使交渉は、選手会側の完勝とはいえないまでも、優勢のうちに一段落した▲第1波のストに突入してから1週間、これほどプロ野球が国民的関心の的になったのも珍しい。しかも国民の支持は、選手会のほうに集まった。この一戦の最高殊勲選手は誰かといったら、純情キャラクターの古田会長で決まりだろう▲経営陣のキャラクターにもなかなか得難いものがあった。「無礼な」「たかが選手ごとき」などと、まるで時代劇の悪代官のようなせりふは、凡人では言えない。あの「たかが」発言があったからこそ、選手会は背水の陣を敷いてストを構えることができたのだ▲交渉の途中、テレビ出演した古田会長が泣いた。「野球小僧」の3番は「泣くな野球の神様も、たまにゃ三振、エラーもする。ゲームすてるな、がんばろう」(佐伯孝夫作詞)だ。日本プロ野球史上初のスト騒ぎの成り行きを手に汗握って見つめた結果、みんなが改めて気がついた。やっぱり野球はおもしろい。(余録)