最後のジャンプ

キクイモ 01

 三段跳びのことを昔はホ・ス・ジャンプといっていたそうだ。ホップ・ステップ・ジャンプの略である。いまの名前に変えたのは、アムステルダム五輪の金メダリスト織田幹雄だといわれる。

 三段跳びで重要なのは最初のホップである。高く跳びすぎないことだ。高く跳べば跳ぶほど前へ進む力が減じ、失速してしまうからだ。小泉政権を振り返って、この三段跳びの鉄則を思う。発足時のホップが舞い上がりすぎではなかったか。

 自民党という重力から少しでも離れようとした跳躍意欲は理解できる。しかし、去年の内閣改造、第2次小泉政権発足をステップとすれば、「改革」の減速は否めない。重力に引き戻されたのか、跳びも小さくなった。今度の内閣改造は、着地につながるジャンプといえるだろう。

 〈秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる〉。風にはっとさせられ、秋の到来を知る。季節の変わり目の感覚だ。人事の変わり目に新風を呼び込んで驚かせるのは小泉首相の手法だった。しかし秋雨のさなかの改造に、驚きは小さかった。1億円献金問題で自民党最大派閥があえいでいるときである。変化を実感させる人事には格好の舞台だったが。

 郵政民営化へ向けての布陣といわれる。首相の宿願とはいえ、民営化は多くの政策目標の一つでしかないだろう。課題は山積している。最後のジャンプに向けて力強い蹴(け)りが求められるときだ。

 空模様と同じで、からりとした気分にさせてはくれない政界模様である。〈秋の雨ものうき顔にかかるなり〉(暁台)
(天声人語)