家庭が円満という子供たちの回答

キチジョウソウ 01

 中学生たちの人生に“反抗期”が消えているという調査結果に、しばし考え込んだ親御さんは少なくなかっただろう。教育シンクタンクの「ベネッセ未来教育センター」の調査では、中学生の八割が“親子円満”と回答したという。

 ▼親を肯定的にとらえ、家庭が円満という子供たちの回答を、悪くとることはない。文句をつける筋合いはないのだが、しかし親や家庭への反抗期は、子供が精神的に自立する上で不可欠な過程だという。その反抗期固有の傾向がうかがえないとなると、これはこれでまた心配であるそうだ。

 ▼思えば青春文学とは、これことごとく反抗期文学だといっていい過ぎではない。「家庭の幸福は諸悪の本(もと)」といったのは太宰治だが、そこには太宰一流の道化と偽悪の逆説があった。しかし太宰ならではの哀しみのアイロニーと警句があった。

 ▼津軽の大地主で有力な地方政治家、という生まれついての環境に劣等感と負い目を抱きつづけ、それに反発し反抗する。そういう太宰文学だからこそ、時代を超えて人びとをひきつけ続けている。いまもなお多くの読者をもっているに違いない。

 ▼マルタン・デュ・ガールの不朽の大河小説『チボー家の人々』も、アントワーヌとジャックという兄弟の、二十世紀初めから第一次大戦という時代と親への反抗の物語だった。ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』も、トーマス・マンの『魔の山』も同様だろう。

 ▼家庭が円満で、親子の仲がいいことを否定する必要はないが、なにごとも乳母日傘(おんばひがさ)ですくすくと育つことは本当にいいことなのか。なかには友だちのような親子関係を自慢する親もいる。しかし温暖の気候の下で肥料をやり過ぎた竹は、節が間延びして使いものにならないという。
(産経抄)