おれおれ詐欺が急増

イヌタデ 01

 「キーッ、キーッ」というモズの高鳴きは深まる秋の音だ。しかし、このモズは春先にはウグイスやヒバリ、シジュウカラなど20種類以上の鳥のさえずりをうまくまねる芸達者でもある。秋とはうって変わったソフトな声である▲オオモズの声の録音を使った外国の研究では、その鳴きまねによって餌食になる小鳥がおびき寄せられた例がある。ただ日本では、モズが鳴きまねで他の鳥をだまして誘い出したという観察例はないそうである(大庭照代「鳴き真似の世界」=築地書館刊「擬態2」所収)▲論文で紹介されている鳴き声の擬態で悪質なのは、托卵(たくらん)によってヨシキリに育てられるカッコウのヒナだ。「シシシシシ」という声でエサを求めるが、これは「シッ」と1音を間を置いて鳴くヨシキリのヒナがたくさんいるように装った声だそうだ▲当のヨシキリの子たちは卵の段階で巣から押し出され、残っているのは“犯人”のカッコウのヒナ1羽だけだ。そこで鳴き声だけでもにぎやかにする一人芝居で親心を刺激し、たんまりエサにありつこうという算段である。ひどいヤツではあるが、自然の摂理のなせるワザなら仕方ない▲許せないのは人の子や孫を思う気持ちにつけこみ、泣き声の擬態で荒稼ぎをするおれおれ詐欺の急増である。8月の被害だけで23億円、今年に入っての被害総額は昨年1年の倍を超える100億円になるというから、腹立たしくもあきれてしまう▲手口も一人芝居から、警官や弁護士を装った犯人が次々に登場するドラマ仕立てまで現れた。油断禁物である。動物の擬態の素早い進化としては、工場のばい煙で環境が黒ずんだため体色も黒くなったガの例が知られる。が、人の悪知恵が巧妙の度を加える早さにはかなわない。(余録)