里山再生

イタヤカエデ 01

 大阪近郊に暮らす友人に誘われて、秋の実りの収穫に出かけた。予想したより山が深い。「クマ? 大丈夫」。友人は事もなげだ。「イノシシなら出る」。それだって怖い。茂みが鳴るたび、腰が浮いた▲NPO法人日本ツキノワグマ研究所(広島県)理事長の米田一彦さんは、北陸のクマ出没地を歩いて異変に気付いた。複数の人間を襲ったり、建物に体当たりする行動は尋常ではない。「すみ慣れた森から、急に広い場所に出たクマが、空間感覚を失ってパニックを起こしている」▲クマ騒動ばかりではない。イノシシやタヌキなどの野生動物が、市街地に現れる例が増えている。母子連れで人家の軒先に近付いて、餌をねだる姿は、はた目にはほほえましい光景だが、自然の摂理からは好ましいとはいえない。人間と野生動物に、一定の距離を置く必要がある▲「かつては里山が人間と動物の境界線だった。それが少なくなった影響が大きい」と米田さんはいう。里山は集落や田畑を取り巻いて、人がさまざまに使う山と考えればいい。多様な雑木や落ち葉は燃料や肥料に利用された。山草類も採れた。柿やクリなどの果実は、さまざまな動物の食料にもなった▲平野部に近い里山は、開発の波で消えた。山村では、生活の変化と過疎化、高齢化で放置されている。行政やボランティアの手で、里山をよみがえらせる作業が、ようやく軌道に乗り出した。森と木は癒やしの源にもなる。時間はかかるが、成果が待たれる試みだ▲アライグマが農作物を荒らすなどの被害も、各地で起きている。元々は外来種のペットとして飼われた。それが持て余されて捨てられ、繁殖した結果だ。こればかりは、捨てた人間に責任があることは、はっきりしている。(余録)