おにあーそぼ

リンドウ 01

 「なぜ 風は/新しい割ばしのように かおるのだろう」。詩人川崎洋さんの詩「なぜ」の一節である。なぜ、海は色を変え、人はひとりの人を愛するようになり、涙はうれしい時にも出るのだろう◆いくつもの「なぜ」のあと、詩は結ばれている。「人はなぜ/いつの頃(ころ)からか/なぜ/を言わなくなるのだろう」。川崎さんは子供たちの書く詩に、大人の忘れた「なぜ」を見た人である◆本紙くらし面「こどもの詩」(大阪管内を除く)には、選者である川崎さんの短い感想が添えられている。ある年の節分のころ、「まめまき」という題で二歳の女の子の詩が載った。詩はただ一行、「おにあーそぼ」◆鬼といえば厄介もの、「鬼は外」に疑問をもたない大人の耳には、「鬼遊ぼ」は舌の回らぬ幼児の言い間違いとしか聞こえまい。川崎さんは、「読んでじんとなりました」と書いている◆方言を採集して全国を歩き、言葉遊びの楽しさを説き、人づきあいの潤滑油であった悪態の魅力を掘り起こす。日本語の美しい遺失物を探しつづけた詩人ならではの選であり、評だろう◆川崎さんが七十四歳で急逝した。選者として二十二年間、ときに殺伐とした記事で埋まる紙面に温かい言葉を添えたオアシスをつくり、数限りない「なぜ」を教えてくださった。ありがとうございました。(編集手帳)