聞く人の心の地獄に、立ちすくむ

クコ 01

 広大無辺にして、花あり、緑あり、潤いに満ちた人生を――という両親の祈りに包まれて、この世に生を受けたのであろうに。みずからと同じ名前をいただくみどりごに、ふるさとの大地が与えた運命は、冷たく、むごい。生後二か月の樋熊(ひぐま)大地ちゃんは、避難場所に移動する車のなかで死亡した。強い余震にショックを受けた突然死とみられる。乳児に子供、お年寄り、天災はいつも「かよわいもの」に狙いを定めて容赦しない。一人、また一人と、死者が増えていく。民家は倒壊し、山肌は崩れ、新幹線は脱線した。新潟県内を襲った強い地震は、一昼夜が過ぎた昨夜になっても被害の全体像がつかめない大惨事となった。懸命の復旧作業をあざ笑うかのように、不気味な余震がつづく。被災地の人々をこれ以上、苦しめることのないよう、荒ぶる大地に祈るばかりである。一九二三年(大正十二年)の九月、歌人の窪田空穂(うつぼ)は関東大震災で瓦礫(がれき)の山と化した東京の街をさまよい、悲痛な一首を残している。「梁(はり)の下になれる娘の火中(ほなか)より助け呼ぶこゑを後も聞く親」。今回も倒れた家屋の下で、崩れた土砂の下で、多くの人が親を失い、祖父母を失い、子供を失った。亡くなった肉親の最後の声は消えることなく、いつまでも耳に残るだろう。聞く人の心の地獄に、立ちすくむ。(編集手帳)