神はサイコロを振らない

ミセバヤ 01

 「神はサイコロを振らない」とはアインシュタインの言葉だ。彼は、原因と結果の関係は確率的にしか分からないという量子力学の考え方に反対し、この言葉を繰り返した。神が意図しない偶然は、この世に存在しない。そんな彼の宗教的信念でもあった▲この天才に対し量子力学で指導的役割を果たした物理学者ボーアは、やんわりと反論した。「でも私たちは、神がどのようにその御業(みわざ)をなすかを指図できる立場にはないでしょう」。神様の仕事のやり方は人がどうこういえることではないというのだ▲神の「御業」は人間に過酷すぎることがある。大災害もまたそうだとしたら、そんな神を受け入れられない人もいよう。では、そこで何が人の生死を分けるのかと言われても、とても人知は及ばない。偶然というサイコロはやはり振り出されているのだろうか▲日本中が息を詰めて応援した長岡市のガケ崩れ現場からの皆川優太ちゃんの奇跡的救出だった。が、それに続いたのは母親の貴子さん、姉の真優ちゃんの死亡という悲報である。運命というには、あまりに無残なガケ崩れとの遭遇、そして生死の分かれ道を通り抜けた優太ちゃんだ▲ただ一人生き延びることができたのは、ひとえに車と土砂の間の50センチ四方、高さ1メートルのすき間に入り込んだ偶然からだった。外の被災者には厳しい寒さも、そこでは適温をもたらしたらしい。さらに大人に生きる気力を失わせる「絶望」とは無縁の幼児だったからとの指摘もある▲人の生死を分かつのが神様のサイコロのせいかどうかは、人それぞれの死生観次第だ。だが、自然の気まぐれに生死を委ねる人間の無力を知らされた震災である。人を生かしてくれている目に見えない何かに思いをめぐらしたい。(余録)