2004-01-01から1年間の記事一覧

おれおれ詐欺が急増

「キーッ、キーッ」というモズの高鳴きは深まる秋の音だ。しかし、このモズは春先にはウグイスやヒバリ、シジュウカラなど20種類以上の鳥のさえずりをうまくまねる芸達者でもある。秋とはうって変わったソフトな声である▲オオモズの声の録音を使った外国の…

イザベラ・バード

昨日の早朝、久々の強い日差しに誘われて散歩に出た。秋霖(しゅうりん)というには荒々しい前夜までの風雨で、空も町も洗われている。木々の葉先に、しずくが光る。木漏れ日が、きらめく。季節は違うが〈あらたふと青葉若葉の日の光〉を連想した。 芭蕉がそ…

チンギス・ハン

大学でモンゴル語を学んだ当時、司馬遼太郎さんはモンゴル人にとって土を掘るのはタブーだと習ったそうだ。講演で司馬さんはその話を紹介しながら、モンゴル人が遊牧を営む草原は土壌が薄く、一度掘り返すと草が生えにくくなるのだと語っている▲だから遊牧民…

家庭が円満という子供たちの回答

中学生たちの人生に“反抗期”が消えているという調査結果に、しばし考え込んだ親御さんは少なくなかっただろう。教育シンクタンクの「ベネッセ未来教育センター」の調査では、中学生の八割が“親子円満”と回答したという。 ▼親を肯定的にとらえ、家庭が円満と…

火と時間との織りなす物語

日本の各地で産出されてきた木炭が並べられた棚の中から、係の人が、小さな箱を取り出してきた。「日本最古ノ木炭」と書かれている。上ぶたのガラス越しに、細長くて透明な容器が見える。その中には、縦横が1センチほどの黒いかたまりがあった。 箱を展示し…

さらば愛しき女よ

私立探偵フィリップ・マーロウは、強打者ジョー・ディマジオが今日もヒットを打ったかどうか、そればかり気にしている。米国映画「さらば愛(いと)しき女よ」(一九七五年)◆ディマジオは一九四一年に五十六試合連続安打の金字塔を打ち立てた。レイモンド・…

立ち残る神

買った本を開いたとき、製本で切り損ねたのだろう、余分な紙を折り畳んだ不体裁なページに出くわすことがある。この裁断ミスのページを「福紙(ふくがみ)」という◆辞書にも載っている言葉で、日本国語大辞典(小学館)には「紙を重ねて裁つ時、折れ込んだり…

「ちろり」

「世間(よのなか)はちろりに過ぐる、ちろりちろり」。室町時代にはやった歌謡を集めた「閑吟集」に、こんな小歌がある。世の無常を歌っているのだが、一瞬の動きを表す「ちろり」というのが面白い▲形あるものが生まれ、また崩れ去るのもしょせん「ちろり」…

月を待つのが風流の道

これといった目玉に欠けた内閣改造。それを察知してか、大目玉の台風21号が東シナ海からとって返して、列島に接近している。意地悪な台風のせいか、つれない秋雨前線のしわざか、昨夜、中秋の名月、十五夜お月さんが姿を見せた地域は限られていた。▼しかし、…

最後のジャンプ

三段跳びのことを昔はホ・ス・ジャンプといっていたそうだ。ホップ・ステップ・ジャンプの略である。いまの名前に変えたのは、アムステルダム五輪の金メダリスト織田幹雄だといわれる。 三段跳びで重要なのは最初のホップである。高く跳びすぎないことだ。高…

時代の鏡像

フランスからいろいろ新しいものが流れ出てくる時代があった。文学、美術、思想から映画、ファッションまで。1950年代がそんな時代だった。50年代半ば、18歳の女子学生が書いた小説があれほど熱狂的に迎えられたのも、一つには強烈なフランスの香り…

下駄の音

小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が没して二十六日でちょうど百年となる。一八五〇年、ギリシャに生まれ、四十歳で来日。島根県松江中学の教師となる。熊本五高を経て、東京帝大、早稲田大に奉職▼最初に泊まった松江の大橋川端の旅館で、夜明けとともに聞こ…

スト回避

灰田勝彦さんの歌う「野球小僧」が世に出たのは1951年。サンフランシスコ講和条約が結ばれ、敗戦日本がやっと独立を回復した年だった。そんな時代の気分が伝わってくる明るい歌声は、いまもラジオの深夜放送で時々流れている▲テレビニュースで、日本プロ…

新そば打ち始めました――。まだ昼までは少しあったが、張り紙につられて、のれんをくぐった。すいていた小上がりに座る。 北海道産の粉で打ったという。どこか青畳のかぐわしさにも通じるような、かすかな香りを味わう。香りだけではなく、そばは、畳との相性…

帝釈天の門前

俳優の渥美清さんは「風天」という号で俳句を詠んだ。映画の役柄、フーテンの寅さんにちなむという。「ゆうべの台風どこにいたちょうちょ」。やや破調ながら、旅先の道端で寅さんが語りかけているような趣がある◆秋の蝶(ちょう)には舞う姿にどこかしら必死…

「あとみよそわか」

幸田露伴は娘の文(あや)に掃除を稽古(けいこ)させた。鍛錬と呼べるほどの厳しさで、ぞうきんの絞り方、用い方、バケツにくむ水の量まで指導は細かい。終わると「あとみよそわか」と呪文(じゅもん)を唱えさせた◆「あとみよ」は「跡を見て、もう一度確認…

RIMPA

俵屋宗達や尾形光琳が、ヨーロッパの装飾芸術に大きな影響を与え、現代の工業デザインの源流に連なる革新的造形芸術だったと考えるのは愉快なことだ▼そんな日本が誇る「琳派(りんぱ)」四百年の美を跡づける『琳派 RIMPA』展が、二十一日から十月三日…

「守・破・離」

「秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず」。世阿弥の「風姿花伝」にそうある。つまり諸道それぞれ家に秘伝があるのは、秘密にすれば神秘的効果が生まれるからだというわけだ。何かだまされた気がするが、だましてでも「花」を追い求めるのが芸というもの…

打ち水の「風」

「我が家の家憲としては十一二歳を越すと朝の掃除を一様にさせること……玄関掃除、門口に箒(ほうき)目を立てて往来の道路まで掃くこと、打ち水をすること、塀や門を拭(ふ)いたりすること、敷石を水で洗いあげることを、手早く丁寧にやらなければならない…

思ハザル

鎌倉時代の説話「沙石集」に歌がある。「言ハザルト見ザルト聞カザル世ニハアリ思ハザルヲバイマダ見ヌカナ」。言わない、見ない、聞かない――は口と目を閉じ、耳をふさげば、できる。「思わない」のは至難の業だ、と◆無心になれば、余計な力が抜けて好ましい…

記憶のなかに翻る日の丸

日本人で初めて五輪の金メダルを手にしたのは、一九二八年(昭和三年)の第九回アムステルダム大会、陸上三段跳びの織田幹雄選手である。表彰式の「君が代」と「日の丸」は長く語り草になっている◆君が代は初めの一節を飛ばし、途中の「千代に八千代に」から…

送り火

「忠魂に捧(ささ)ぐ浄白の大文字」−−戦時下の1943(昭和18)年8月17日の毎日新聞はそんな見出しで京都の「白い大文字」を伝えている。朝焼けの空を背にして、緑の中に白く浮き出た「大」の写真も添えられている▲京都五山の「送り火」が灯火管制や…

オリーブ

アテネ五輪の開会式でギリシャの選手団が手に手に小さな国旗を振っていた。どの旗の先にもオリーブの枝が揺れていた。「平和の祭典」という近代五輪の原点を振り返ろうというギリシャらしい小道具だ▲オリーブが平和のシンボルになるのは、ハトがオリーブの小…

オリーブの小枝

オリンピックの開会式の主役は、もちろん選手たちである。その選手たちが「点火の時に鳥肌が立った」と述べた聖火の役回りも大きい。しかし、アテネの開会式では、オリーブの存在が大きく見えた。 無数の小枝となって人々にうち振られ、大会のシンボルとして…

中国戦国時代の思想家・荘子は、優れた自然観察家でもあったらしい。先日の小欄で紹介した「胡蝶(こちょう)の夢」(http://d.hatena.ne.jp/chimimouryou/20040709)もそうだが、よく自分の考えを自然界の虫や動物で表した。「けい蛄(こ)(セミ)は春秋を知…

「より」をめざす力の激突

「より速く、より高く、より強く」。五輪の標語は、もともとは高校のラグビーチームに与えられた言葉だったという。だとすれば、ラグビーが五輪の競技種目から消えてしまったのはファンとしても残念だが、スポーツの世界にもいろいろ歴史のアヤはある▲「速く…

三遊亭円朝

明治時代に、文章の言葉遣いを話し言葉に一致させる言文一致の運動が起きた。中心に居た一人で「浮雲」などを著した二葉亭四迷が、「余が言文一致の由来」を記している。 「何か一つ書いて見たいとは思つたが、元来の文章下手で皆目方角が分らぬ。そこで、坪…

関電は放置したという

人間の知恵がつくりだしたものを挙げてごらん、と父親が言う。息子が数える。「トラクター、チューインガム、バター…まだ知ってるよ、いちばん大きいのを、原子力」◆それだ、と父は教える。石油は乏しくなり、石炭の底も見えてきたが、原子はふんだんにある…

悪魔でも出し抜ける

相手が悪魔でも出し抜ける。芥川龍之介の「煙草(たばこ)と悪魔」には、悪魔が日本に持ち込んだタバコの草の名前を当てないと魂を奪われることになった牛飼いが出てくる。人の良さにつけ込まれ、悪魔にだまされてしまったのだ▲牛飼いは一計を案じて牛を悪魔…

ザネスの神像

古代オリンピックの競技場の入り口近くには、かつて16ものザネス(ゼウスの方言)の神像が立っていた。2世紀ローマのパウサニアスは、像には「優勝は金銭によってではなく、脚の速さと身体の頑健さによって獲得されなくてはならない」と刻まれていたと伝…